Scenarios

Scenario

シナリオも書いています。


このシナリオは、yutaka hirasakaさんの"Innocent Blue"という曲を聴いていたときに浮かんだ映像を一度絵コンテに起こし、そこに台詞をつけて作りました。

yutaka hirasaka " Innocent Blue" 

『空が、すごく青いよ』


雪村颯太    (17)高校2年生

                         (22)大学4年生

平沢花     (17)颯太のクラスメイト

吉田莉子    (20)大学2年生

雪村美智子 (40)颯太の母

雪村浩一  (43)颯太の父


◯渋谷区神南・交差点全景(朝)

   多くの人が信号が変わるのを待っている。

   マフラーを巻いた女子高生や、厚いコートに身を包んだサラリーマンの姿。

 

◯渋谷区神南・交差点(朝)

   雪村颯太(22)が厚い紺色のピーコートにグレーの厚手のマフラーを巻いて

   信号待ちをしている。

   両手に息をはきかけながら、空を見上げる。

   快晴で、薄い青の空がビルとビルの間から見えている。

 

◯(回想)雪村颯太の自宅・ダイニング(朝)

   雪村颯太(17)と雪村美智子(40)が食卓を囲んで座っている。

   二人の間に会話はなく、黙々と食事をとっている。

   颯太の隣には、雪村浩一(43)が座っているが、浩一の前には皿などはなく、

   浩一は黙って新聞を読んでいる。

   颯太、ため息をつき、学校指定のかばんにスマホを入れるとダイニングを出る。

   ダイニングのテーブルの上には手をつけられていないままの皿が残っている。

   美智子は、皿を持ち上げると、食べ物をそのままゴミ袋に入れる。

 

◯(回想)渋谷区神南・交差点(朝)

   颯太が厚い紺色のピーコートにグレーの厚いマフラーを巻いて

   信号待ちをしている。

   右肩には学校指定のかばんをかけ、道路の黄色い点字ブロックを見ている。

   表情は暗く、物憂げである。

   颯太の学校指定の靴は磨かれておらず、白くなっている。

   颯太の靴の隣に、ぴかぴかのローファーが並ぶ。

   驚いて隣を見る颯太。

   隣には、平沢花(17)が肩までの少し茶色がかった柔らかい髪を揺らして

   微笑んでいる。

   花は、左手で颯太の右腕のコートの端をつんつんと引っ張り、

   右手でビルとビルの間から見える空を指す。

花「空が、すごく青いよ」

颯太「え?」

花「人間には見えないだけで、世界はいつもそこにあるんだね」

   信号が青に変わる。

   花は照れたように笑い、コートの裾から見える短いスカートを翻し、

   駆けて行く。

   ビルとビルの間から見える空は抜けるように青い。

 

◯(回想)有明高校・全景

 

◯(回想)有明高校・屋上(夕)

   誰もいない屋上。夕日が貯水槽を照らしている。

   颯太が、屋上のフェンスにもたれかかり、

   じっとオレンジ色の街を見下ろしている。

花「わっ!」

   声に驚き、振り返る颯太。

   夕日に照らされた花が口に両手を添えている。

颯太「誰?」

花「平沢花」

颯太「じゃなくて」

花「私は平沢花。それ以上でもそれ以下でもない」

颯太「同じクラスだっけ」

花「後ろの席」

颯太「覚えてない」

   花、頬をふくらませる。

颯太「ごめん、ボク世界に興味がなくて、キミだけに興味がないわけじゃなくて」

花「世界は、きれいだ。キミは見るべきだ」

   花、身を乗り出してお説教を始める。

   颯太、吹き出す。

花「何がおかしいの」

颯太「世界について熱く語る人初めて見た」

花「ふん」

颯太「キミはボクに何か教えようとしてるの」

花「世界の、すごさ」

颯太「おせっかい」

   花、ふくれる。颯太、吹き出す。

颯太「その表情いいね」

   笑い続ける颯太。颯太につられて吹き出す花。

 

◯(回想)渋谷区神南・交差点(朝)

   コートに身を包んだ颯太が、寒そうにマフラーを口まで引き上げる。

   急に後ろに引っ張られる颯太。振り返ると、

   花が颯太のマフラーの端を引っ張っている。

颯太「あぶないでしょ」

花「青い」

   花が指す方向には青い空が広がっている。

颯太「青いね」

花「もし、今キミが何かが足りないと思っているなら。

  もしかしてそれは、大事な誰かを忘れているのかもしれない」

颯太「なにそれ」

花「私も誰かを忘れてるのかな、と思って」

颯太「そんなことあるのかな」

花「誰かを忘れたことに気づかないつてこと?」

颯太「そう」

花「人はみんな忘れるよ。世界の色も何もかも、全て」

颯太「今のこの青も?」

花「大事な誰かのことも」

   下唇をかむ花。

   花の手は寒さのせいか赤くなっている。

颯太「大丈夫?」

花「大丈夫」

   颯太、自分のコートのポケットを指して、

颯太「使いますか?」

花「おせっかい」

   花、むすっとしながら颯太のポケットに手をかける。

   颯太、花、朝日を浴びながら空を見上げている。

 

◯(回想)有明高校・屋上(夕)

   颯太と花が言い争っている。

颯太「キミはいつもそうだ。なんでもかんでも自分一人で決めて」

花「私はキミに迷惑をかけたくない。だからさようなら」

颯太「迷惑ってなんだよ」

   花、一呼吸おいて、静かに言う。

花「私、毎日少しずつ忘れていってるの」

   花、涙をこぼしながら、微笑む。

花「自分のこと忘れる女の子なんて、嫌でしょう?」

   夕日が沈み、屋上下のグラウンドにライトが灯る。

 

◯(回想)有明高校・屋上(夕)

   颯太が去った後の屋上。

   一人、こぼれる涙を拭う花。

花「いやだ、いやだよ。もっと、もっと、世界を見たい」

   座り込み泣く花。

花「キミと同じ世界を見ていたい」

   月が薄暗がりの中泣きじゃくる花を照らす。

花「あの青い空を、オレンジ色の夕日を、一緒に見たい、それだけなのに」

 

◯渋谷区歩道(朝)

   颯太がコートのポケットに手をいれ、身をかがめて歩いている。

   向こう側から、吉田莉子(20)が歩いてくる。すれ違う二人。

   莉子は涙をぽろぽろこぼしながら歩いている。

   颯太、泣いている莉子の横顔を見る。

   莉子は神南交差点へ向かっている。

   颯太、立ち止まり、莉子の後ろ姿を見る。

   踵を返し、交差点へ向かう颯太。

 

◯渋谷区神南・交差点()

   スマホで話すビジネスマンやOL、通学途中の高校生などが信号待ちをしている。

   莉子はぽろぽろと涙を流しているが誰も気づいていない様子である。

   颯太、莉子の隣に並ぶ。スマホを取り出し、耳にあてる。

   スマホの画面は「乗り換え案内」になっている。

颯太「ああ、うん。そう、今渋谷」

   颯太、大きな声で言う。

颯太「空が、すごく青いよ」

   颯太、空を見上げる。

   莉子、つられて空を見上げる。

   ビルとビルの間に薄い青の空が広がっている。

颯太「世界は、きれいだ。キミは見るべきだ」

   莉子、颯太のほうを見る。

   信号が青に変わり、颯太は歩き出す。

   莉子は立ち止まったまま、空を見上げている。

花の声「おせっかい」

颯太「キミなら、こうしたでしょ」

   颯太、コートのポケットに手を入れて雑踏をすり抜ける。

 

◯(回想)渋谷区神南・交差点(朝)

   颯太と花が青い空を見上げながら朝日を浴びている。

   花の手は颯太のポケットに入っている。

   花は颯太に気づかれないようにそっと颯太のほうを見る。

   切ない表情をするがすぐに空を見上げて言う。

花「空が、すごく青いよ」

颯太「青いね」

   信号が青になり、花は颯太の先を駆けて行く。



10:00のキミ』(iPhoneCM風

 

人物

宮崎隼人(17)

        (30)

瀬谷蕗子(17)

        (30)

受付の学生

アップルストア店員

 

○電車・中(朝)

   駅の電光掲示板には『10:00』と表示されている。通勤客はまばらで、空

   席もある。座席に座り、小さなクロッキー帳と鉛筆を持ち、クロッキー

   をする宮崎隼人(17)。隼人の正面の座席には瀬谷蕗子(17)が文庫本を開

   いたまま寝ている。隼人、一通り蕗子を描き終えると赤いマフラーを巻

   き直して目をつむる。

 

○電車・中(朝)

   駅の電光掲示板には『10:00』と表示されている。駅に着いて扉が開くと

   駅の外に赤い朝顔が見える。正面の座席には白い半袖のシャツを着た蕗

   子が眠っている。模写した蕗子の横に朝顔の絵を足す隼人。

 

○電車・中(朝)

   電車が駅に着く。ドアが開くと同時に薄いベージュのコートを着たOL

   が入ってくる。

   降りようと席を立つ蕗子を呼び止める隼人。

隼人「あああ、あの、来週、文化祭が」

蕗子「ごめんなさい!」

   走り去る蕗子。呆然とする隼人。

 

○電車・中(朝)

   駅の電光掲示板には『10:00』と表示されている。蕗子の姿はない。今ま

   で描いた蕗子の絵を切なそうに眺める隼人。赤いマフラーを巻き直して

   眠る。

 

○沢芸術大学・アトリエ・中(夕)

   油絵を描く隼人。イーゼルの横の椅子には小さなクロッキー帳が置い

   てある。

 

○三橋野美術大学・卒業制作展会場・中

   隼人、作品解説を手に、作品をみている。一枚の油絵の前で足を止める。

   『10:00』とタイトルが書いてある。クロッキー帳と鉛筆を持ったまま電

   車の中で眠っている男子高校生が描かれている。絵の中の高校生は赤い

   マフラーをしている。受付へ急ぐ隼人。

隼人「すみません、この絵を描いたかたは」

受付の学生「えっと、瀬谷です。瀬谷蕗子です」

隼人「お会いすることって」

受付の学生「瀬谷は昨日ニューヨークへ留学に」

   蕗子の作品の前に戻り、絵を見つめてつぶやく隼人。

隼人「油断大敵」

 

○銀座・アップルストア・中

   店内はiPadiPhoneなどを触ってみている外国人などでにぎわってい

   る。隼人(30)が「ARIAKE」という名札を提げた店員に説明を受けてい

   る。

店員「ではここに、職業を入力してください」

   隼人、『アニメーター』と入力する。

 

○銀座・アップルストア・中(夜)

   店内は客がまばらである。蕗子(30)が「ARIAKE」という名札を提げた

   店員に説明を受けている。

店員「では、ここに職業を入力してください」

   蕗子『イラストレーター』と入力する。

 

○恵比寿駅・前(朝)

   iPhoneのマップアプリを開く隼人。行き先に『目黒区青葉台1-23-4』と

   設定してある。首をかしげる隼人。『経路検索』画面に触れる。日比谷線

  (中目黒方面)に乗る。

 

○代官山・道(朝)

   iPhoneのマップアプリを開く蕗子。行き先に『目黒区青葉台1-23-4』と

   設定してある。首をかしげる蕗子。『経路検索』画面に触れる。東横線(横

   浜方面)に乗る蕗子。

 

○中目黒・目黒川沿いの道(朝)

   桜が満開である。桜の花びらが舞っている。人はまばらである。隼人、

   iPhoneで写真を撮るのに夢中になっている。蕗子、iPhoneで写真を撮る

   のに夢中になっている。

 

○目黒川・橋(朝)

   隼人、蕗子とぶつかり、iPhoneを落とす。蕗子、それを拾い、隼人に渡

   す。iPhoneの画面には『10:00』と表示されている。

 

N「会いたい人には、また会える。そう、アイフォーンならね」